大判例

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高知地方裁判所 昭和25年(ヨ)222号 判決

申請人 有限会社山本造船鉄工所

被申請人 全日本造船労働組合四国支部山本造船高知鉄船分会

右代表者 分会長

一、主  文

本件仮処分の申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

二、事  実

申請人代理人は申請人と被申請人間の昭和二十五年八月八日附の覚書はその覚書に基く契約失効確認の判決があるまでその効力を一時停止する旨の仮処分の裁判を求める旨申立て、その理由として次のように述べた。

申請人と被申請人間には昭和二十五年七月十一日以降未払賃金の支払、企業整備の問題をめぐり紛議が生じていたのであるが同年八月八日の団体交渉の結果両者間に同日附で未払賃金につき別紙目録記載のような内容の覚書が成立した。ところで先づ第一に、申請人が右覚書により銀行から受けようとする融資は未払賃金の支払にあてるためのものでいわゆる赤字融資である。しかるにかような融資は一九四八年十一月六日の連合軍最高司令部から日本政府宛のいわゆる企業三原則により全面的に禁止されている。そこで右覚書はその成立当時においてすでに実現不可能な事項を目的とする契約であるから法律上当然に無効のものである。第二に、被申請人は右覚書四の条項により申請人の金融措置に協力する債務を負担している。ところで右覚書の成立前である昭和二十五年七月二十五日被申請人は申請人を相手として高知地方裁判所に対し組合員の解雇禁止、会社財産処分禁止の仮処分を申請し、同月二十七日その旨の仮処分決定を得ていて、この決定は申請人の金融措置に対し重大な支障を来すものである。そこで申請人は同年八月十一日被申請人に対し同月十四日までに右仮処分の申請を取下げるよう申入れをした。しかるに被申請人は右期日を経過しても遂にこれに応じなかつた。そこで申請人はこの債務不履行を理由に同月十五日内容証明郵便を以て右覚書に基く契約解除の意思表示をし、その書面は翌十六日被申請人に到達した。従つてこれにより右覚書は同日失効したものである。第三に、仮りに以上の主張が理由がないとしても申請人は右覚書二の申請人の全財産の処分を被申請人に任じた条項をすでに解除している。すなわち右条項は委任契約であるから申請人は昭和二十五年八月十七日附内容証明郵便を以て被申請人に対し民法第六百五十一条の規定に基きその契約解除の意思表示をし、その書面は翌十八日被申請人に到達している。そこで右条項はすでに失効したものである。しかるに被申請人は右覚書に基き申請人の財産を擅に処分する虞が大であり、事実すでに同月二十三日以降において多量の資材、設備品等を他に売却処分している。もしこのまま無計画に処分をつづけられるとすると申請人のみならずひいては申請人の債権者も著しい損害を蒙ることとなる。そこで申請の趣旨のような仮処分を求めるため本件申請に及んだ次第であると述べた。(疎明省略)

被申請人代理人は主文第一項と同旨の裁判を求め、次のように述べた。

申請人主張の事実中、申請人と被申請人間に未払賃金の支払、企業整備の問題をめぐり紛議が生じていたこと(但しその時期は昭和二十五年初め頃からのことである)、申請人主張のような日附、内容の覚書がその主張の団体交渉の結果申請人、被申請人間に成立したこと、申請人からその主張のような月日、仮処分申請取下げの申入れがあつたことは認めるがその余の事実は全部否認すると述べた。(疎明省略)

三、理  由

申請人と被申請人間に未払賃金の支払、企業整備の問題をめぐり紛議が生じていたこと、昭和二十五年八月八日の団体交渉の結果両者間に同日附で別紙目録記載のような内容の覚書が成立したことは当事者間に争いがない。

申請人は右覚書は無効の契約であると主張する。しかしその主張するように一九四八年十一月六日の連合軍最高司令部のいわゆる企業三原則によりいわゆる赤字融資が全面的に禁止され、又未払賃金の支払にあてるための銀行の融資がそのいわゆる赤字融資に該当するものであるとしても右覚書は実現不可能な事項を目的とした契約であるとはいえない、すなわちそれは融資銀行と申請人間の契約ではなく、又成立に争いのない甲第三号証、証人森本徳雄、植木茂郷、武市数末の各証言を綜合すると右三原則の指示された以後であることが明らかな昭和二十五年八月上旬頃においては申請人は事実上も銀行から融資を受け得べき状態にあつたことにつき疏明があるからである。次に、被申請人が申請人主張のような仮処分の申請をし、申請人主張の月日、その主張するような内容の仮処分決定を得たことは成立に争いのない甲第二号証により明らかである。しかしながらこの仮処分の申請あるいは決定が申請人の金融措置に対し重大な支障を来しているとの点については証人森本徳雄、植木茂郷、武市数末の各証言ではまだ疏明十分といえず、結局この点については疏明がないこととなる。従つて申請人の右覚書解除の主張はこれを採用すべき根拠を欠くものといわねばならない。最後に、申請人は右覚書二の条項を解除したと主張する。しかしながら本件覚書のような使用者と労働組合間に締結された労働関係の契約について使用者である申請人側のみの都合により一方的に、しかもその全体が有機的な関連性をもつ契約の一部条項のみを、何等の特約あるいは特段の事情がなくして解除し得るかどうかは極めて疑問とすべき事柄である。しかしこの点はさておくこととしても民法上の委任契約は元来受任者が委任者のためその事務を処理することを目的とする契約である。しかるに右覚書二の条項は受任者にあたる被申請人が委任者にあたる申請人のためその事務を処理するため、というよりはむしろ主として受任者にあたる被申請人の利益のため締結された契約であることがその文言上明らかである。これは民法上のいわゆる委任とはその性質を異にするものである。従つてかような契約は申請人主張のように民法第六百五十一条により解除し得べき限りではない。この点の申請人の主張も採用し難い。

以上の次第で申請人がその申請の理由とするところはいづれも失当であるから本件仮処分の申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森本正 安芸修 谷本益繁)

目録

覚書

一、申請人は昭和二十五年八月八日現在におけるその所有の土地、建物、機械、器具、工具一切を担保として銀行から同月十八日までに金二百万円の融資を受けこれを未払賃金に充当する。

二、右期日までに金融がつかないときは申請人所有の全財産の処分を被申請人に任じ、被申請人はそれを以て未払賃金の支払に充当する。

三、右融資による支払の結果なお未払となる賃金の担保のため申請人所有の土地、建物、機械、器具、工具一切につき申請人は被申請人のため二番抵当権を設定する。

四、被申請人は申請人の金融措置に協力する。

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